シリーズ : メコンの経済回廊 [2014_4月(Apr)]



1日おきの片側通行

      60 年間にもおよぶ少数民族カレンと中 央政府との対立は、2012 年1月 に和平合 意が実現。このため、国境から約50 キロ のカイン州(旧カレン州)の東西回廊の山 岳区間が13 年8月末、外国人旅行者も通 れるようになった。

    道路は、舗装が剥がれ、穴だらけ。タイ から日用品を満載したトラックが山道を登 れず、立ち往生している。雨季(5~ 10 月)はスリップ事故が絶えないという。切 り立った崖の上を通行する区間もあり、対 面通行できる道幅が確保されていない。こ のため、2014 年4月の場合、偶数日がタ イからミャンマーへの下り、奇数日がタイ への上り、となっている。

圧倒的なタイ側の貿易黒字

    しかし、道路インフラは最悪でも実需が 道を拓く。タイ・ミャンマー間の国境貿易 の5~6割を同ルートが担う。国境のタイ 側メーソート税関の統計によると、タイ側 の輸出は、07 年の110 億バーツ(約350 億円)から12 年は340 億バーツと5年で 3倍に増えた。輸出上位はガソリン、ビー ル、食用油だ。 一方、同期間 の輸入は11 倍増えたが 12 億バーツ にとどまり、 圧倒的なタイ 側の貿易黒字 だ。

    このほか、 ミャンマーで 走る日本製中 古自動車のう ち、非正規で流入する分は、タイ・レムチャ バン港で陸揚げされ、メーソートへいった ん運ばれた後、この回廊を自走する。もち ろん両国間の貿易統計には含まれていな い。



ミャンマーへの玄関口メーソート

    タイ・ミャンマー国際友好橋のタイ側 メーソートには、二輪用タイヤやエンジン オイルなどホンダの純正部品をミャンマー に輸出する業者が忙しそうだった。とくに マンダレー方面の陸送需要が急増している という。

    タイ製品がミャンマーへ、ミャンマー全 土からの300 万人の出稼ぎ労働者がタイ へ。その多くが、この東西回廊のメーソー ト・ミャワディー国境を通過していく。近 く日本の大手商社がメーソートに事務所を 開設するというが、物流拠点としても整備 が進むメーソートの戦略的な位置を考えて のことだろう。

    メーソートには、サハグループの工業団 地もあり、日系下着メーカーのOEM 生産 も行われている。タイ企業約400 社が集 積し、ミャンマー人労働者数万人が働く。

国境に工業団地、ミャンマー側で成功するか

    一方で、ミャンマー側でも国境から東 西回廊で12 キロの地点に、ミャワディ工 業団地の建設が進む。敷地面積が約8万 1,000 平方メートルで、昨年3月に着工。 2015 年の3月に工事が完了し、工場用地 の販売が開始される見通し。ミャワディ商 工会のティン・ティン・シヤ会長は、「ミャ ンマー側で工場ができれば、タイで働いて いる出稼ぎ労働者は戻ってくる」と意気込 む。

    しかし、タイと比べて電力などのインフ ラが不足し、電気代や地代が高いミャワ ディに進出するメリットは乏しい。 「 人々は簡単に国境を越えて通勤できる。 タイでは、ミャンマーの5倍の1日300 バーツ(約960 円)の最低賃金がもらえる。 ミャンマー側で働く魅力は感じられない」 (在ヤンゴンのコンサル)。「ミャワディの 開発は厳しい。経済水準が高いタイ側で開 発が進んでしまっている。今さらインフラ がなく、賃金の安いミャンマー側に工場や 人が集まるだろうか」(在バンコク政府研 究機関の関係者)。ミャワディの前途は多 難だ。

タイ+1、パアンで自動車関連製品も

    国境のミャンマー側の開発が厳しい状況 であることから、カイン州都パアンが注目 されている。東西経済回廊はモーラミャイ ンが終点だが、これをパアン経由でヤンゴ ンまで延長し、整備しようという構想が、 日本側にも出ている。

    パアンはタイ国境から150 キロ、最大 都市ヤンゴンから300 キロの地点にある が、車での移動ではほぼ中間(約6時間) に位置。タイへの出稼ぎ労働者を多く送り 出しており、タイ・プラスワンの生産拠点 としての可能性に期待が高まっている。

    日本向けの縫製品を製造している地場の UMH 社。労働力不足を見越し、自社が開 発するパアン工業団地に、UMH の第3 工 場を12 年11 月に稼働した。パアンの団 地には2 ~ 3 社が稼働しているが、UMH が最も規模が大きい。   

    当初は従業員150 人でスタートし、現 在は350 人体制まで増やした。日鉄住金 物産向けにユニフォームを月間3万着以上 生産。日系自動車メーカー向けの事業も近 く展開するという。東西回廊が整備されれ ば、日本向け輸出は、ミャンマー国内のヤ ンゴン港ではなく、タイ・レムチャバン港 を利用する考えだ。

それでも人はタイへ

    UMH のワーカーの平均給与は、毎日2 時間半の残業代込みで、月給15 万チャッ ト(1万5千円)。ヤンゴンに比べても賃 金水準は同レベルかむしろ高い。

    しかし、パアン初の近代的な工場にもか かわらず、「雇用の場ができれば、タイへ の出稼ぎ者が戻ってくる」というシナリオ は簡単には描けそうもない。タイへの出稼 ぎ経験者は、350 人のうちダオさん1人だ けだった。「戻っておいて」と母親の求め に応じてタイから戻ってきたが、「タイの 生活の方が楽しいし、給料も高い。できる ことならタイで働き続けたかった」と本音 を漏らす。

    両国間の経済格差は、ミャンマー人労働 者をタイへとますます惹きつけている。ベ トナム・ダナンからラオス・タイを経てミャ ンマー・モーラミャインまでの東西回廊。 来年の全通時には、「人はタイへ、モノは ミャンマーへ」の流れを加速させるだろう。 その時、メコン地域に展開する日系企業の 製造拠点、販路構築の戦略は大きな転換期 を迎えるかもしれない。

    記事提供/ NNA http://www.nna.jp/copy-of-home 


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