シリーズ : メコンの経済回廊 [2015_4月(Apr)]





<ASEANの中のベトナム>

    2015年2月、日本貿易振興機構(JETRO)がASEAN (タイ、インドネシア、ベトナム、シンガポール、マレーシア、フィリピン、ミャンマー、カンボジア、ラオス)、南西アジア(インド、バングラディッシュ、スリランカ、パキスタン)、オセアニア(オーストラリア、ニュージーランド)の15カ国を対象に実施した進出日系企業へのアンケート調査「2014年度在アジア・オセアニア日系企業実態調査」によると、投資環境上のメリットとしてベトナムは「人件費の安さ」が4位にランクインしている。(1位バングラディッシュ、2位フィリピン、3位カンボジア)更に、ベトナムに進出している企業の約6割の企業が黒字経営で、輸出加工型の製造業については、約7割が黒字経営となっている。また、今後のベトナムへの事業拡大についての回答では、約7割の企業が「拡大する」と答えており、その理由として「売り上げの増加」、「成長性、潜在力の高さ」が期待できるとされている。

    ベトナムは、メコン川流域の流通網(東西南北回廊)をはじめとするインフラ整備が進んでいることや域内経済統合による関税撤廃が予定されている点、そして安い人件費と豊富な労働力により今後も、ますます注目を集めるであろう。

<日系企業が抱える課題>

    安い人件費、豊富な労働力でASEANの中で最も注目されるベトナム。注目を集めている一方、課題も山積している。中国に生産拠点を持ちながらベトナムに進出した企業は、ベトナム進出のメリットとして、中国よりも安価な人件費、政治、治安の安定、親日的な国民性、日本や中国からの部品調達が容易である点などをあげている。しかし、進出当初は「中国より安く作れる」「ベトナム人は勤勉で手先が器用」と期待をしていたが、実際は社員教育に多くの費用と労力がかかるなど、期待どおりには進まない企業もある。

    「2014年度在アジア・オセアニア日系企業実態調査」によると、ベトナムの一般ワーカーの賃金上昇率は「9.9%」となっており、前年(12.1%)よりは低下したが依然として高い。加えて、コストの大部分を占める材料や部品は、ベトナムの裾野産業が未成熟なため、輸入か現地外資系企業からの調達となり、割高である。大量に部品を輸入すれば、そのための物流コストも増加する。

    さらに同調査では、ベトナムにおける投資上のリスクとして、①法制度の未整備・不透明な運用、②従業員の賃金上昇、③原材料・部品の現地調達の難しさ、④税制・税務の手続きの煩雑さ、⑤行政手続きの煩雑さがあげられている。特に法制度の未整備・不透明な運用は、企業が進出や事業拡大を検討する上での悩みの種となっており、外資系企業から改善の要望がベトナム政府へ多く出されている。また、賃金の上昇が続いている点は、輸出型企業にとって、今後大きな課題となる可能性がある。少し前の中国が良い例で、労務費が上昇したことで日系の製造業は中国の内需へとシフトさせていき、輸出型企業は海外へ製造拠点を移していった。

    ベトナム政府は2020年のベトナム工業国化に向けて様々な取り組みを行っているが、「資本集約型工業」への取り組みにはタイをはじめ周辺国に大きく遅れを取っている。このため、布地、鉄鋼、紙などの素材は中国をはじめとした周辺国からの輸入に頼らざるをえず、また、高い技術を必要とするような工具、工作機械、縫製資材なども、自国では調達できない。 政府は、裾野産業の育成のために高い技術力を擁する日系中小企業の誘致に力を入れており、積極的に誘致したいとの考えだが、日本の中小企業は、ベトナムへの進出に興味はあるものの現地での会社設立・運営に関して情報が不足しており、なかなかベトナムへの進出に踏み出せないのが現状である。

    ベトナムは、周辺国に比べ原材料・部品の現地調達率が低くJETROの調査によると2014年の日系企業のベトナムでの原材料・部品の現地調達率は33.2 %となっており、ASEANの平均値である41.9%に比べてもかなり低い数値となっている。

<2020年工業国化へ向けて>

    ホーチミン市はベトナム最大の商業都市であるが、その為にこれ以上の工業団地の造成は難しく、多くの工業団地は、ホーチミン市周辺の、ドンナイ(Dong Nai)省、ビンズン(Binh Duong)省、タイニン(Tay Ninh)省、ロンアン(Long An)省、バリアブンタウ(Ba-Ria-Vung Tau)省へと移ってきている。

    その中でもドンナイ省、ビンズン省は工業団地の集積地として有名で数多くの日系企業が進出しており、これらの地域のインフラも急速に整備が進められている。

    例えばホーチミン市東部に隣接するドンナイ省に新たに建設されたロンドウック工業団地は、双日、大和ハウス、神鋼環境ソリューションとベトナム企業の4社合弁企業により、2013年に造成工事・インフラ工事を全て完了させた新しい工業団地である。このロンドウック工業団地が建設された場所は、これまでホーチミン市から直接つながる道路がなく、迂回を余儀なくされるために通勤に2時間以上かかっていたが、2015年1月の東西ハイウェイの開通により、1時間程度での通勤が可能となった。また工業団地周辺には、ベトナム南部最大の港湾としてカイメップ・チーバイ港湾群があり、更に2020年を目処に建設が予定されているロンタン国際空港にも非常に近い場所となっており、充実した日系企業向けサービスとともに注目を集めている。

    また、ホーチミン市の北部に隣接するビンズン省は、ホーチミン市を中心とした南部経済圏の主要な省の一つであり、製造業をはじめとした数多くの日系企業が製造拠点を構えている。そのビンズン省で現在最も注目されているプロジェクトが「ビンズン新都市開発事業」で約10,000haの区画に住宅、オフィス、商業施設、公園、工業団地、省政府行政センターなどが立ち並ぶ総合都市開発で人口12万5千人が生活し、60万人の雇用を生み出される予定だ。このビンズン新都市開発計画には、日本の東急グループも街区面積約110ha(敷地面積約71ha)を対象に、約7,500戸の住宅、商業施設、業務施設などの開発を行っており、注目を集めている。

    また、2014年11月には日本の「イオンモール2号店」が日系企業が多く入居するVSIP工業団地の目と鼻の先にオープンした。これにより、日本人駐在員のビンズン省での住環境が充実して来ており、これまでホーチミン市から長時間かけて通勤する必要のあった VSIP2工業団地、ASCENDAS工業団地などにも日系企業の進出がより行いやすくなってきている。

<大きな可能性を秘めるホーチミン市>

    ベトナムの大きな特徴は南北に長い国土にハノイ市とホーチミン市という、大都市が両立しており、しかもそれぞれが南北に1700km以上離れている点がある。中国などの大国を除くと、1国に2つの大都市があるケースは珍しく、進出企業は、どちらの都市に進出すべきかを検討する必要がある。北部ハノイ市周辺は中国南部に隣接しており、海路でも1、2 日で製品を運べるため、自動車やバイク、電気や電子機器の大企業が大規模な製造拠点を置いている。

    一方、南部ホーチミン市周辺は、比較的中小企業の進出が多くなっている。しかし、中国から生産拠点を移してきた世界的な企業も軒を連ねる。大規模工場としては、ユニクロやアシックス、ナイキなどの縫製品の委託生産拠点が目立つが、電子部品や自動車関連の工場も多く進出しており、世界各地へ「Made in Vietnam」の製品が輸出されている。

    立地的にもホーチミン市を中心とする南部経済圏は、ASEAN地域の中心に位置しており、タイ、ミャンマー、カンボジア、マレーシア、フィリピン、シンガポール、インドネシアなどの国にほぼ2時間以内で移動できるという立地上の利点がある。2015年に予定されているASEANの関税撤廃やASEAN域内の交通インフラの整備が進めば、ASEAN全体の経済のさらなる活性化、効率的な生産体制を築くことが可能で、ホーチミン市がASEAN物流のハブになりえる可能性も十分に秘めているといえる。

    企業にとっては、法制度の未整備、従業員の賃金上昇、現地調達の難しさ、人材育成等の様々な課題があるが、世界の中でも特に親日的であり、安い人件費、若くて豊富な人材、ASEAN域内の立地条件、国内市場の成長性など、ベトナム自体にはまだまだ高いポテンシャルがあり、今後の発展が期待される。




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