シリーズ : メコンの経済回廊 [2016_04月(Apr)]

水力発電開発が進むラオス
外貨獲得の切り札に






    人口わずか650万人の社会主義国でありながらも安定した政治体制で知られ、南北経済回廊と東西回廊といったインドシナ半島の物流網とも接続するラオス。このところの経済発展を後押ししているのが、国土を南北に流れる大河メコン川の活用だ。南部カンボジアとの国境近くにあるコーンパペンの滝は上流への船舶の航行を困難なものとし、それが有史以来の彼の地を未開のままに押し留めてきた。ところが、ここに来てタイと結ぶ4本の友好橋が架けられたことに加え、最大の天然資源「水」を有効利用して一気に開発を進めようという動きが広がっている。名付けて「インドシア半島のバッテリー化政策」(アサン前副首相)。日系をはじめ外国資本が入り乱れての水力発電事情をまとめた。


    人口の8割近くが農漁業従事者で、国民一人当たりのGDP(国内総生産)が今なおタイの3分の1にも満たない1,693ドル(2014年IMF統計)の後発開発途上国ラオス。産業を育成しようにも輸送手段がほとんどなく、大規模な鉱床が見つかっても採掘すら行われない状態がこれまで続いていた。わずかな発展がみられた製造業は、伝統的な家内制手工業による縫製業とビア・ラオで知られた国産のビール製造というから、その「貧しさ」のほどがわかる。だが、少ない人口の一方で、毎年のコメの生産高は200万トンを超えるなど国民が生活に苦しむことはなかった。それが安定的な治安を実現させてきた。

    ラオスの豊富な水資源を産業に転じようという動きは、1953年の独立後、間もなくからあった。招かれた技術者の一人が戦前からの日本人実業家で、後に日本工営の社長を務めた久保田豊氏(故人)だった。東京帝国大学の土木科を卒業した久保田氏は治水・利水のプロフェッショナル。日本の実質統治下にあった満州と朝鮮で、電力確保のため建設がすすめられた水豊(スプン)ダムのプロジェクトでも指揮を執った。貯水容量76億立方メートルは当時としては世界最大級として知られ、現在も中朝国境にあって北朝鮮の重要なエネルギー源の一つとなっている。

    その同氏がコンサルタントとして関与したラオスのナムグムダムは、首都ヴィエンチャン都の北方ヴィエンチャン県を流れるメコン川の支流ナムグム川を堰き止めて作られた(ナムグム湖)。71年に稼働が始まり、水車発電システムは日立製作所、三菱電機、三菱重工業の水力発電事業を統合してのちに誕生した現在の日立三菱水力が納入した。以来、数次にわたり拡張を続け、現在の年間発電量は約10億kWh。このうち4分の3ほどをタイに送電し、貴重な外貨収入源となっている。



■水力発電計画が目白押し

    ラオス水資源当局者によると、メコン川の水力を利用して得られる現在の理論上の発電総量は本流域では1万6,000メガワット(MW)、支流域で2万6,000MW。その約半分ほどがラオス国内に集中している。構想段階のものも含めると水力発電所計画は大小70近くにも上る。このうち進行中の主な事業化計画を抽出したのが別表の「ラオス国内における最近の主な水力発電所計画」だ。

    関西電力が45%を出資して運営を進めるのが、中部ボーリカムサイ県を流れるメコン川の支流ナムニアップ川で建設が進む「ナムニアップ第1水力発電所」。大手ゼネコンの大林組が単独受注。ナムニアップ川に高さ148m、堤長530mの総出力約272MWの主ダムと6.5km下流に同18MWの副ダムを建設、合わせて計291MWを発電する。約22億㎥の総貯水量は日本一の堤高を誇る「黒四ダム」の11倍以上。ここにナムグムダムと同様に日立三菱水力が水車発電機一式を納め、IHI、栗本鐵工所、松尾橋梁の橋梁・水門事業が統合して発足したIHIインフラシステムが水門鉄管工事を受け持つ。2019年にも営業を開始。開発資金は国際協力銀行のほか大手メガバンクなどが負担するなど多くの日系企業の関与で有名な発電所だ。

    こうした「日系連合」の動きに対抗して近隣諸国などからも進出が相次いでいる。タイのゼネコン大手チョーカンチャンは企業連合「サイニャブーリー・パワー」を組成。ラオス北西部サイニャブーリー県のメコン川本流域に発電容量1,285MWという巨大水力発電所の建設を進めている。タイ発電公団(EGAT)のサポートを得て、運用開始後の総発電量の95%超をEGATが買い取る計画だ。ただ、メコン川を堰き止める初めての本格ダムとあって、下流域のカンボジアやベトナムなどからの反発も根強い。このため、チョーカンチャン側は100億バーツを新たに投じ、魚が回遊できる支援システムを採用。500トンほどの小型の船舶であれば航行できる措置も施した。稼働開始は当初予定の20年から前倒しされる可能性もある。

    生態系への影響から世界自然保護基金(WWF)が懸念を示すダム構想もある。発電事業などを手掛けるマレーシアの複合企業メガファースト・コーポレーションが、南部コーンパペンの滝近郊の中州にある一部分流を止水して建設しようとする「ドンサホン水力発電所」がそれだ。発電容量は約240MW。ラオ電力公団が25年にわたり電力を買い取ることにしているが、WWFは慎重な判断を求める姿勢を崩していない。流域国でつくるメコン川委員会も「水資源や水産業への影響、川イルカの保護などの点が不明だ」としており、19年とする工期が大幅に伸びる可能性もある。

    このほか、中国や韓国、タイの発電会社などもメコン川本支流域での水力発電所計画を進めている(別表参照)。共通しているのが、経済成長で逼迫が続く国内向け電力の確保が主な動機という点だ。一方、電力を供給する側に鑑みれば当面の貴重な外貨獲得の切り札ともなる。ただ、闇雲な国土開発はいずれ破たんを来(きた)す。そのあたりの舵をどう取っていくのか。ラオス政府の手腕がまさに問われている。 (写真はすべて小堀晋一氏提供)


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