シリーズ : メコンの経済回廊 [2016_08月(Aug)]

ミャンマー製造業の現状と課題
KAIZENコンサルの現場から




ミャンマー日本商工会議所会員数



    ティラワ経済特区が昨年9月に開業。すでにミャンマーで小型トラックを生産しているスズキがティラワでの新工場稼働を進める一方、日産もタンチョン・グループ(マレーシア)に委託する形で年内に小型車「サニー」の生産開始を発表した。日系製造業のミャンマー進出が縫製業から他の業種にも拡がる様相を呈しているなか、現場における品質管理やミャンマー人労働者の気質についてはほとんど知られていない。
    ヤンゴンでローカル製造工場の生産性や品質管理のKAIZENコンサルティングを行うTAKARA MYANMAR CO.,LTD.の中田氏が工場現場の状況と課題を報告する。


■ミャンマー製造工場の現状

    筆者がこの1年で5社の現状を調査してわかったのは、日本より50年は遅れている管理手法をそのまま継続していると言っても過言ではない、ということだ。「材料はいつ購入したのかわからない状態で倉庫に放置」「工程間は中間在庫の山」「受け入れ検査する材料や部品の手順書すらない」「完成品倉庫は担当者しか置き場がわからない」など、全くマネジメントされていない状態。もちろん、シックスシグマなど品質管理手法も知らず、品質推移グラフのツール等も存在しない。過去のわずかな知識と経験のみで運用されているのがミャンマーにおける製造工場の現状である。

    その中において、現地中小企業を対象に大学教授などのローカル講師による品質、生産性に関するセミナーがときどき開催されているが、聴講した地場企業の社長によれば、現場を把握していないため、その理論は非現実的でまったく使いものにならなかったという。

    一方、従業員の気質を分析してみると、長期軍事政権によるトップダウン教育システムの副作用として、いい悪いは別にして「言われたことは着実に実施する」という国民性があり、決してナマケモノではないが、自分の仕事に対する意見などを言わないことが美徳とされる。これは工場運営にとって致命的な原因になりかねない。なぜなら、高度成長期に突入したこの国において、現状維持は後退しているのと同義だからだ。

■ミャンマー品質システム導入のポイントは?

    では、どうすればいいのか? ASEAN各国でのコンサル経験から近隣のタイやベトナムなどの工場と比較した結果、次の3点をいかに克服するかがポイントとなる。

日系企業のミャンマー進出状況

(1)求められるのは経験豊富なオールラウンダー

    コンサルタントは、倉庫管理や製造管理に関する能力を有することはもちろん、現状の設備をいかに応用し、使いこなすかの生産技術的な知識や経験も必須となる。なぜなら、生産設備などは一般的に中国からの中古設備や手動のベンダー(曲げ加工など)が使われており、高額な生産設備の導入がむつかしい環境だからだ。また、発注伝票などもすべて手書きのため、受注システム(プロキュアメント)に関してもアドバイスできなければ業務は成り立たない。KAIZENは、何もない環境からどのように構築していくかがカギとなる。

(2)あえて内側からKAIZEN

    トップダウンに慣れたミャンマー従業員を抱える工場にいて短期間で成果を出すには、コーチング手法で不具合点を指摘し修正していけば、早期にそれなりの結果は見込めるが、維持継続できないのは明白である。従って、このような従業員の気質に対して、あえてプロジェクトを結成し、チームごとに自分たちで改善を提案し、推進していく方法のほうが彼らにとっても新鮮であり、かつその達成感は無限の可能性を持っているといえる。つまり、長期レンジでサポートしていくのではなく、自立するための支援がベストである。

    もちろん、TQC、ISOやシックスシグマ等の品質管理テクニックについても、わかりやすくブレークダウンして教える事前教育が欠かせない。

(3)モチベーション向上

    経営者は、従業員のモチベーションを上げるために何をしたらいいのか等を常に考えているが、具体的な事例(案)を知らないため、どうしても現状維持を最優先し、時間だけが経過してしまうというジレンマを抱えている。筆者が提唱しているKAIZENは、業務をベースとしたモチベーションアップを基本としている。さらに、退職率が高い昨今、工場スタッフ主導のイベント企画等は大きな効果が期待できる。 

    例えば、筆者はクライアントの1社から全社新年会のプログラム内容の相談を受けた。そこで、過去の経験から人気のある職場対抗のゲーム等を提案し、大盛況となった。また、ミャンマーではむつかしいとされるカラオケやダンス大会を提案したが、半信半疑の反応であったため、ラテンダンスインストラクターでもある筆者が社員に事前にレッスンすることを条件に採用。当日は一緒にステージに上がりダンス大会も大盛り上がりで終了、全員から感謝された。翌日からは、従業員と目が合うたびに笑顔で迎えてもらえるようになった。単なる仕事のコンサルから仲間として認められた感覚は今でも忘れられない。

KAIZENアジェンダ事例


■今後の対応と方向性

    ミャンマーの最低賃金は日々上昇しているため、生産性を含めた長期的な戦略が必須となる。品質に伴うDコスト(欠陥コスト)は高い生産性と同時に改善されるという原理原則を、現場で実践し、彼らに体験してもらい、結果を出すことで浸透させていく。これは今後の製造工場における永遠のテーマでもある。



<著者略歴>

中田敏行氏

    KAIZENコンサルタント。30年勤務したソニーを早期退職し、日本語教師ライセンスを取得後、アルゼンチンに移住。その後、スペイン、トルコ、ハンガリーを経てミャンマーに拠点を構え、現在に至る。

    専門は、電子工学でありながら、金属加工、モールド成形からLCDパネル製造まで幅広い知識と現場改善を得意とする。トヨタ生産方式(生産革新)の公認インストラクターライセンスを持ち、部品メーカーに対するISO品質システムのオーディッター(監査員)指導講師でもある。    

    ヤンゴンでは、ビジネス日本語教師としても業務展開しており、週末はラテンダンスインストラクターとしても活動。マルチな生活スタイルは異色でもあり、KAIZENする原動力でもある。

引用:
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