2018.06 China_vol.39
2月号の第1特集で取り上げた「素形材」は、中国ではあまり馴染みのない言葉だけに反響が大きかった。まだ4カ月しか経ってないが、再び取り上げることにした。
2月号をご覧になっていない方のために、素形材について改めて説明する。素形材は、素材に熱や力が加えられ形が与えられた部品や部材のことであり、素材は、金属をはじめ木材、石材、窯材、ゴム、ガラス、プラスチック、ファインセラミックス、複合材料など多岐にわたる。加工方法は、銑鉄鋳物、非鉄鋳物、ダイカスト、鍛造、金属プレス、粉末冶金、熱処理、金型、鋳造鍛造機械などが該当する。
そのなかから2月号では、主に鍛造とプレス加工について取り上げたが、今回はダイカストにフォーカスする。ダイカストは、亜鉛、アルミニウム、マグネシウムなどの非鉄金属とその合金を材料とし、高い寸法精度の製品を短時間に大量に生産できることから、自動車から航空、機械、電子、家電など幅広い業界で利用されている。
中国のダイカストの生産量は、経済発展に歩調を合わせるように急激に伸びた。智研諮詢によると、2011年に190万tだった生産量は、16年には300万tを突破。18年は400万t 近辺まで拡大する見込みだ。経済産業省の生産動態統計によると、日本の16年の生産量(30人以上の事業所対象)は98万3536tなので、中国は約3倍もの開きがある。
さまざまな産業で活用されるダイカストだが、近年、もっとも多く採用されているのは、自動車部品向けのアルミダイカストだ。燃費性能を向上させるため、自動車メーカー各社は軽量化を追求している。それがアルミダイカストの利用を押し上げているのだ。自動車に使用されているダイカスト部品全体におけるアルミダイカストが占める割合は、約8割に達する。また、自動車だけでなく、アルミダイカストは高速鉄道にも多く採用されているという。
このようにダイカストは、高付加価値の製品を生産するうえで欠かせない存在になっている。自動車の電動化がさらに進めば、いっそうの軽量化が求められるようになる。そうなると今後、アルミダイカストの需要はますます拡大していくだろう。それには、高い耐久性と精度を保証する高品質の金型や設備の存在も当然重要になり、裾野は広い。関連企業にとって、ビジネスチャンスは多そうだ。
ただし、高付加価値製品に欠かせないのはダイカストだけでなく、素形材全般にいえることでもある。「中国製造2025」を追い風に、中国でもその流れは今後加速するだろう。
本特集では、特に高付加価値の素形材に強みを持つ会員企業を紹介する。

【掲載企業一覧】
埼玉鋁合金精密鍛造(丹陽)有限公司 SAITAMA ALUMINUM FORGING DANYANG CO., LTD.
中山林立精密工業有限公司 HAYASHI FELT(ZHONG SHAN)CO., LTD.
深圳市五鑫科技有限公司 Mould Lao WUXIN
ルンキーメタルジャパン株式会社 Lung Kee Metal Japan Co., Ltd.
深圳市泰姆康精密机械有限公司 Shenzhen TIMECO Precision Machinery CO., LTD.
中山精密五金(深圳)有限公司 Nakayama Precision Metallic Production (ShenZhen) Co., Ltd.
欧州の大手自動車メーカーも認める熱間鍛造
加工材料:アルミニウム
加工方法:熱間鍛造 プレス加工
埼玉鋁合金精密鍛造(丹陽)有限公司 SAITAMA ALUMINUM FORGING DANYANG CO., LTD.
FNA会員番号:16388
連絡先:江蘇省丹陽経済開発区通港西路68号28-29栋
TEL: 0511-8699-7122 担当者:柴崎昇
実績:欧州・日系自動車メーカー、航空機、モバイクなど
主要設備:鍛造機( 2500t)+加熱炉、鍛造機( 1500t)、切断機、プレス機( 250t)、熱処理炉、ロール成形機、マシニングセンタ、塗布ロボット、材料分析器、三次元測定機、引張試験機、硬度計など
埼玉プレス鍛造(埼玉県川口市)の現地法人で、アルミ熱間鍛造に従事。自動車業界が主要顧客だが、航空機やモバイクなどにも部品を供給している。アルミ熱間鍛造は、温度変化など厳格に管理しなければならない項目が多く、経験に基づいた高い技術力が要求される「日本刀を作っているような感覚」(柴崎昇董事・総経理)だという。車体の軽量化に寄与するアルミ鍛造品は高級車のサスペンションでは広く使用されているが、高度な技術を要するゆえに、中国で生産できるメーカーはほぼ皆無。調達が課題だった欧州メーカーから認められ、中国国内のみならず、輸出向けも手がけている。受注増に対応するため、2017年には蘇州市に第2工場を開設した。電動自動車(EV)にも注力。EV のエアコンコンプレッサにはアルミが使用されるため、今後の受注拡大が予想される。 | ![]() |
寸法公差0.05mm の精度と徹底した品質管理が特徴
加工材料:金属 プラスチック 海綿 フェルトなど
加工方法:金型 プレス加工
中山林立精密工業有限公司 HAYASHI FELT(ZHONG SHAN)CO., LTD.
FNA会員番号:54611
連絡先:広東省中山市火炬高技術産業開発区興達街5号
TEL:0760-8789-3386 担当者:趙少華
実績:OA 機器関連:キヤノン、コニカミノルタ、京セラなど。自動車関連:ホンダやトヨタのブレーキシステムおよびドアや窓のシール材な。
主要設備:【加工機械】プレス機10台、自動機2台、油圧機7台。【計測機器】二次元測定器、投影機、ノギス、マイクロメーター。
林フェルト(東京都台東区)の現地法人で、主にOA機器やカメラ、自動車向けに薄型電子装置の部品やその付属品、絶縁フィルム、金属部品などを製造・販売している。2015年からは金型の製造も開始し、従来よりもリードタイムを2日間短縮できるようになった。高精度加工を得意とし、寸法公差は0.05mm以内に制御することが可能だ。さらには品質管理に力を入れ、IQC(部材受入検査)やIPQC(工程内品質管理)を徹底。16年には自動測定システムを導入し、あらゆる検査基準がシステム内で統一され、データを統一して保存できるようになった。17年にはクリーンルームを設置し、特にOA機器や光学、自動車の液晶モニターなどの製品に注力している。蘇州と大連にも工場がある。 | ![]() |
金属とプラスチックの一体成形に高い評価
加工材料:金属 ゴム プラスチック
加工方法:金型 プレス加工 プラスチック加工
深圳市五鑫科技有限公司 Mould Lao WUXIN
FNA会員番号:16388
連絡先:広東省深圳市松崗鎮燕川村欖頭第四工業区C幢
TEL:0755-8176-5688 担当者:大庭英誉
実績:自動車(コネクター、センサー、エンジン回りの耐熱パイプ、ガソリンポンプフィルターなど)、機構部品(歯車、カム、2色成形部品など)、電器(コネクター、電動工具、スマホ用アルミアウトサート成形など)
主要設備:【工作機械】マシニングセンタ:東芝機械、森精機など 放電加工機・ワイヤーカット機:ソデイックなど 【成形機】住友、日精樹脂など 【測定器】三次元測定機:ミツトヨ 工場顕微鏡:ニコン、ミツトヨ
2004年12月に汪強氏が創業し、14年には日本人の大庭氏が増資に応じて経営に参画。現在ではグループ会社24社を有す。精密プラスチック用金型の製作・販売、プラスチック成形に従事し、深圳市からハイテク企業に認定されている。強みとしているのは、金属とプラスチックを一体成形するインサート・アウトサート成形。スマートフォンのアルミフレームとプラスチックの一体化、コネクターの金属端子とプラスチックインシュレーターの一体化、電子ウォッチのアルミフレームとプラスチックの一体化を得意としている。最近ではプラスチック部品の開発において、日本の顧客と一緒に改善しながら進めるケースが増えているという。今後は、電器製品の開発から販売まで領域を拡大する計画だ。 | ![]() |
月産5万5000セットを誇るモールドベースメーカー
加工材料:金属 ゴム プラスチック
加工方法:鋳造 鍛造 金型 プレス 成形
ルンキーメタルジャパン株式会社 Lung Kee Metal Japan Co., Ltd.
FNA会員番号:62356
連絡先:日本群马县邑楽郡大泉町吉田914-1
TEL:81-276-203900 担当者:石川一秀
実績:包裝、自動車、電子、IT、医療、航空宇宙、鉄道、食品・飲料、金型。
主要設備:河源工場には数値制御(NC)工作機械が500台。アマダ、牧野フライス製作所、安田工業、オークマ、ヤマザキマザック、岡本工作機械製作所、倉敷機械、独KASTO など。
1975年に香港地区で創業。広東省、浙江省に加え、日本、マレーシア、台湾地区にも生産拠点を構える、世界四大モールドベースメーカーの一角である。モールドベースの標準規格品、特注品に加え、鋼材も扱っている。「龍記(LKM)」ブランドとして知られる標準規格品は月産5万5000セット。顧客の要望に合わせた加工も行っている。特注品は、空調棟で精密モールドベースを製造したり、超大型設備で自動車向けのモールドベースを製造したりと、専門チームが顧客の厳しい要求に応える。鋼材は日本の大同特殊鋼、スウェーデンのASSABなど大手メーカーの代理販売をし、品質を重視する金型メーカーにとって頼もしい味方となっている。今後は、世界中の顧客がより気軽に高品質の製品を購入できる環境を整えたいとしている。 | ![]() |
世界各国の規格に対応した金型部品を製造
加工材料:金属
加工方法:机械加工
深圳市泰姆康精密机械有限公司 Shenzhen TIMECO Precision Machinery CO., LTD.
FNA会員番号:54929
連絡先:広東省東莞市大嶺山鎮博創園一棟318
TEL:138-2881-7091 担当者:曾(日本語可)
実績:高精密樹脂金型、FA 設備の図面加工。EVA 樹脂金型事業部は月産10万個。
主要設備:【CNC マシニングセンタ】DMG 森精機2台、中国メーカー製6台 【CNC 旋盤】DMG 森精機2台 【平面研削盤】岡本工作機械製作所2台、中国メーカー製6台など。
日本工業規格(JIS)、ドイツ工業規格(DIN)、米国国家規格協会(ANSI)に準拠した金型部品や関連製品の研究開発、製造、販売に従事。DME、DME-EOC、HASCO、CUMSA、STRACK、RABOURDIN、PROGRESSIVE、SUPERIOR などのメーカー製を取り扱い、エジェクタピン、エジェクタプレート、クランプ、位置決め部品、冷却部品などを生産している。日本の加工設備を所有し、定期検査だけでなく毎日朝と午後の始業前に点検を実施し、厳格に品質を管理している。汎用品だけでなく、図面を基にした加工も行っている。高い品質を維持しながらも中国の低価格を実現。納品は早く、在庫があれば当日か翌日には届けることが可能だ。今後は、効率化のための伸縮可能なコアピンの研究開発を進めるとともに、ガス抜きピンのラインナップを強化する計画だ。 | ![]() |
9軸CNC 複合旋盤を駆使した複雑形状部品に強み
加工材料:ABS 樹脂 非鉄金属
加工方法:鍛造 切削 成形
中山精密五金(深圳)有限公司 Nakayama Precision Metallic Production (ShenZhen) Co., Ltd.
FNA会員番号:62215
連絡先:広東省深圳市坪山新区坑梓街道龍田社区龍興南路38号
TEL:0755-8411-9892 担当者:今井弘規、張洋古
実績:時計(腕時計のりゅうず、プッシュボタンなどの外装部品)、食品(コーヒーメーカーのノズル)、自動車(車載エアコンの部品)、通信(光通信用コネクタ部品、電気通信用コネクタ部品、コネクタピン)
主要設備:CNC 精密自動旋盤100台(ツガミ、シチズンなど)、カム式精密自動旋盤150台(ツガミ)、精密彫刻機、CNC 小型旋盤、縦型樹脂成形機、湿式バレル研磨機、カム成形機、平面研削盤、デジタルマイクロメータ、投影機、工具顕微鏡、表面粗さ測定機、真円度測定機など
中山製作所(千葉県佐倉市)の現地法人で、CNC精密自動旋盤やカム式精密自動旋盤による切削加工および各種二次加工、樹脂成形の組み合わせによる精密部品製造に従事している。特に得意としているのは、9軸CNC複合旋盤を駆使した複雑形状部品の製作。従来、二次加工を行わなければ実現不可能だった複雑形状を1台で加工することが可能で、リードタイも短縮できる。加工寸法の精度維持のために、公差中央値狙いの管理を徹底。同一機械内で加工するために同軸度などの幾何公差も高精度に加工でき、歩留りも向上する。現在は、時計外装部品製造技術を生かし、スマートウォッチ関連の部品受注に注力している。 | ![]() |
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本誌2017年2月号の「クローズアップ製造業」で日本自動車部品工業団地(JAPIC)を紹介した。江蘇省丹陽市にある、日本の自動車部品メーカーが集積する工業団地だ。各社が中国市場での売り込みを図っているが、なかでも埼玉プレス鍛造の現地法人「埼玉鋁合金精密鍛造(丹陽)有限公司」は、特にうまくいっている入居企業の一社だ。日本での取引実績のない、欧州大手メーカーからの受注に成功したからだ。 それは、同社のように精度の高いアルミ熱間鍛造を手がけられる企業が中国にはほぼ皆無だったからだ。柴崎昇董事・総経理が話すように、アルミ熱間鍛造は設備が高性能であればできるというものではない。質の高い原材料の調達もさることながら、温度管理をはじめとする、長年かけて積み上げてきた経験がものをいう世界である。そのことをよくわかっているからこそ、欧州メーカーがわざわざ同社の工場を訪れ、採用までにいたったのだ。 確かに中国の製造業における技術力は、ここ10年で飛躍的に向上した。しかし、それでもまだ国内調達が難しい分野もある。ニッチな分野で特別な技術を有す日系企業にとっては、まだまだ中国には多くのチャンスが眠っているに違いない。 |