理想のものづくりを追求する中国華南の若き経営者

理想のものづくりを追求する中国華南の若き経営者

モデルチェンジが速く、世界中がしのぎを削っている精密プラスチック成型用金型。常に最新技術にチャレンジしている深圳市五鑫科技有限公司の金型は、完成品の精度が高くバリ取りがほとんど必要ないため、世界中の顧客から好評を得ている。今回は、汪強総経理と田村敏行副総経理に同社の目指すものづくりについて伺った。

◆世界から選ばれる金型

「これまで、できなかった金型は1つもありません。受注したからには必ずやり遂げます」。そう語るのは、精密プラスチック成型用金型の設計・製作から成型までを手がける、深圳市五鑫科技有限公司の総経理汪強氏だ。

その実力を証明するのが、同社売り金型の海外輸出比率にある。一般的に金型は、納品後の修正・メンテナンス体制が顧客満足につながると言われる。しかし、同社は海外拠点を持たないにも関わらず、その約7割超を海外メーカーへ輸出している。

しかも、これまで手掛けた金型は、自動車・家電・医療・OA業界等ジャンルを問わず、中国でも数えるほどの企業しか対応できない難易度の高いものだという。常に最先端の技術が求められ、そしてモデルチェンジが速い分野なため、研究開発に意欲的な企業体質でないと、たちまち他社に追い抜かれてしまう厳しい業界だ。

◆発想力と技術力で最先端を拓く

「最近の案件では、スマートフォンのレンズ ホルダー金型が難しかったです」。そう語るのは副総経理の田村敏行氏だ。

近い将来デジカメ市場を席巻する勢いのスマートフォンだが、その原動力となっているのがカメラ性能の著しい進歩。レンズ自体の精度はもとより、レンズ精度を左右するのが、レンズを固定する「レンズホルダー」と言われる部品だ。

この部品には、薄いレンズをしっかり固定できる高い精度が要求されるわけだが、モデルチェンジが速く、より小型化・軽量化が求められるため、精密成型金型界でも、特に創意工夫が求められる分野の1つだ。

また同社では、スマートフォン関連だけでも、この他に液晶フレームやコネクター等の、常に最先端の技術が求められる部品で力を発揮しつづけている。

時には、会議室で中国語、ドイツ語、日本語、英語などのさまざまな言語が飛び交う。同社の金型を求める顧客は日本を始め、ASEAN、ヨーロッパ、アメリカと、世界各地に広がっている。

◆理想のものづくりを追求するために

同社の創業は2005年。当時日系金型メーカーの技術者であり、20代にして技術部門の統括を任された汪氏が、理想とするものづくりを追求するため、独立・設立した工場だ。「技術とは精度。そして、技術は設備が作るものではありません。人が作るものです」。まさに技術者としての汪氏の誇りが凝縮されたこの一言に、同社のポリシーがある。汪氏が目指す「理想のものづくり」は、「人の成長」そのものだ。

そのため同社では、いかに人が辞めない会社経営をするかが鍵になっており、この点に力が注がれている。

その代表的な例が、従業員の勤続年数の長さと、社内結婚率の高さにある。同社の従業員は約70名。その内幹部の8割は、創業当時からのメンバーだ。そして、従業員中に夫婦が14組おり、従業員の約4割が夫婦で占められている。

つまり、従業員にとっては、家庭の延長線上に会社がある。自分や家族の将来設計と会社の未来像が重なるため、担当業務に責任感が生まれ、従業員は積極的に業務に打ち込むようになる。各人が主体的に業務に向き合うと、そこからまた手ごたえと将来への期待が生まれていく。こうしたサイクルがうまく定着できたところに、従業員が辞めない大きな理由がある。

また、同社では採用時に、あえて同業他社よりも低い、最低賃金でしか採用しないという。「わたしと同じように、ものづくりが大好きな人材しか採用しません」と汪氏は語る。目先の給料よりも、同社の目指すものづくり、経営方針に共感してくれる人材を集めるためだ。そして、実力が付いてからは、責任と能力に相応した給料体系となり、他社より高い給料になる仕組みとなっている。

◆技術×経営=よい金型

よい技術者だけで、よい金型ができるとは言い切れない。開発を受け持つ技術者、それをマネジメントする人がうまくかみ合って、初めてよい金型が世に送り出される。汪氏は、「よい技術(人)も、よい経営がなされなければ活かされません」と語る。では、同社が考えるよい経営とはどういうものだろうか。

その答えの一例として、経営情報の公開がある。各社員に「独立・自由・責任」を与え、各部門で独立採算制を採用。会社の利益と、個人の利益を連動させることで、社員に会社との一体感を持たせている。また、社員が希望すれば、技術・管理・語学等の教育受講費用も会社が負担している。社員1人ひとりのスキルアップを助け、共に成長できる仕組みを整えている。

こうした汪氏の発想はその生い立ちにさかのぼる。湖北省武漢市出身で、父は7,000人を超す国営工場の財務経理を務めており、小さいころの遊び場は工場だった。工作機械が立ち並び、そこで仕事をしていた父の姿が、今の同社のDNAとなって受け継がれている。

人材の定着が難しい中国製造業の環境において、技術は人に始まり、そこに尽きると言い切る中国の若き経営者。完成品メーカーになることではなく、部品メーカーを極めるという将来を描く。そして、そこには、技術を求める世界中の企業が集まってくるのだ。