本格化するタイ現地調達市場
「これからの10年」にかけるニチダイの戦略

NICHIDAI ASIA CO., LTD.


本格化するタイ現地調達市場
「これからの10年」にかけるニチダイの戦略


 

    自動車生産台数200万台、国内新車販売台数100万台と、ともに5年ぶりとなる大台を回復した2018年タイの自動車市場。10年前に現地法人を設立した、精密鍛造金型シェアトップのニチダイ(本社・京都)にとっても過去最高の売上高を記録。さらなる足がかりを築いた一年だった。だが、現地チームを引っ張るVice President井本 善之氏の表情からは、いつまでも険しさは消えない。安堵の一方で、「タイの市場は大きく変化を遂げている」と強く感じる節目の年となったからだ。トータルエンジニアリング事業に踏み出して丸3年。これからの10年を「現地調達の成熟期」と読み解き、第2幕を突き進むニチダイ・アジアの今をリポートする














    昨年の年末を迎えたころだった。この一年間を振り返った井本氏は、それまでに比べ新規引き合いが増えてきた現実に直面していた。金型メーカーとして注文が増えることに、嬉しくないわけがない。だが、明らかに従前の動きとは違う現実に、ある種の戸惑いもあった。「何かもっと加速度的に、大きな変化が生じているようなダイナミズムな動きを感じたのが2018年という年でした」(井本氏)

    考えてみた時、それは企業各社が雪崩を打つように「現地調達化」に動いている現実であることが確信できた。部品や部材、さらには半完成品をタイに輸入し、現地で製品化する。そうした動きが、これまでの日系を中心とした外国企業の基礎的な進出モデルだった。

    ニチダイ・アジア自身がそうだった。本社工場となる宇治田原工場(京都)で、理想的なプレス加工法ネットシェイプ工法を使って生産された冷間鍛造金型。精度が高く耐久性にも優れた日本品質の優良品をタイに運び、顧客の元へ。13年からは金型の受注事業そのものも始めたが、タイ法人が本社の〝出先機関〟である位置付けからはなかなか脱却できなかった。

    それが今、明らかに変化をし始めている。「精度の高い金型を現地調達したいのだけども、どこか良いルートはないですか」「生産を現地化したいのだけども、どこか良い素材の調達先はないでしょうか」。井本氏の元には、そんな相談事が日に日に寄せられるようになっている。さまざまな業界情報も集積されるようになった。相談される存在感も嬉しかったが、それ以上に業界の〝悲鳴〟にも似た切実な声に触れた実感がした。

    「それは、待ったなしと言ってもよいものでした。少し前までなら、日本から(金型製品を)持ってくればいいというのが現実だったのですが、これからはタイで手にいれなければダメでしょ。リアルタイムで、ここで作っていかなければダメでしょ。そうした共通した認識に変わっていったのです」と井本氏は振り返る。時代の大きなうねりを、製造業の国タイで感じた瞬間だった。





    この変化は、実は企業体としてのニチダイ・アジア自身がすでに体感し、取り入れ始めていた。3年前の16年3月、同社は技術サポートを担当する「技術部門」を新設。トータルエンジニアリング事業をスタートさせている。日本から派遣された冷間鍛造のスペシャリストがタイ人技術者を養成するなど、金型の図面引きから現地で対応できるようにしたのだ。

    こうした変化は、顧客との間合いや距離感、すなわち「顔の見える営業」(同)につながった。レスポンスよく設計の変更にも対応できるようになったことで、生産性はもとよりモチベーションもアップした。畢竟、それはタイのモノづくり全体の底上げに他ならなかった。限りなく求められるコストダウン。その一方で、絶対に譲れない高品質高性能。複雑な連立方程式を解くカギがタイ進出にあった。現地調達は、来たるべき製造国タイ市場の譲れない宿命だった。

    「タイにニチダイあり」。同社では今、ネットシェイプ工法を含むあらゆる生産工程のできるだけ多くを、タイで構築していくための取り組みや準備を進めている。背後にあるのはもちろん、絶えることのない取引先企業の現地調達化に向けたニーズだ。「技術者の養成は一朝一夕ではできず、困難は承知の上ですが、目指す最終的な着地点はタイの生産・販売における拠点化。タイにニチダイありです」と井本氏は力強く語る。その視線のすぐ先に、さらに巨大なアジア市場を見る。

    例えば、間もなく世界最大多の人口を擁することになる南アジアの大国インド。14億人になんなんとする巨大市場に根付き始めた自動車産業をめぐって、世界的な企業各社の駆け引きはすでに始まっている。井本氏自身も昨年、自ら現地に赴き、初めての視察に臨んだ。眼前に広がる市場の広さと懐の深さ。ただただ驚愕し、可能性に目をむいた。東南アジアには同様に、2億5000万人と巨大な人口を抱える自動車生産国インドネシアもある。アジアへの関心は尽きない。

    「08年にタイに進出してからの10年間は、自らの現地化と取引先企業の現地調達化に貢献するための第1歩に過ぎませんでした。これからの10年は、タイをハブに、ここから始まる10年間となるよう努力していきたい」と話す井本氏。「でも、インドに赴任となったら単身かな。当分、休む時間はありませんよ」と笑いを集めてインタビューを終えた。