「5つのいくつ(5T)」で高密度コイル生産 開発と生産管理のエキスパート企業



線積率は100%目前。常識を疑うような、そんな高密度コイルを生産する日系企業がタイにある。バンコク西郊サムットサコーン県にあるT.I.T. ELECTRONICS CO., LTD.。操業開始は1994年。職人たちの高い技術力が特徴の会社である。それを側面からサポートしているのが飽くなき品質管理への挑戦だ。従業員一人一人のコスト意識は高く、機械稼働の最適化となって生産の現場を支えている。世界中の自動車や家電等の心臓部に組み込まれ、核となって企業活動の屋台骨を支える高密度コイル。産業の中心となった現場に足を運んだ。




■90%超えた線積率

 T.I.T. ELECTRONICSのサムットサコーン工場は、バンコクから車で1時間強のところにある。辺りにはタイ人の住宅や農地が点在する完全なローカルエリア。23年前の立ち上げ時からこの場所にある理由を、小林延守会長は「従業員があってこその当社。通いやすくて住みやすい場所にあるのが最高の福利厚生。日系企業が集まるような工業団地に移転する予定はありません」と話す。

 長野県小諸市にある「セルコ」を母体の一つとしてタイで誕生した。日本側が開発研究(R&D)と試作を担当するのに対し、タイ側では量産の重責を担う。本社工場のほかにコンケン県にもう一工場、さらに100%出資の子会社と生産拠点は計3つ。ここで高い技術力を使った高密度コイルが日々量産され、タイ国内向けのほか日本や欧米をはじめとした全世界に輸出されている。

 コイルは、その巻き方によって電気を流した時の出力されるパワーに違いが出る。小型化が進む自動車部品や家電等の内蔵部品。線積率の向上が市場のニーズとしてあった。これを解決したのが同社従業員たちが持つ職人技だった。従来は60%程度あれば十分とされていた線積率を90%超えと大幅にアップ。これにより出力が上昇したばかりか、効率を高め、放熱を抑えることにもつながった。

 とはいえ平坦な道のりではなかった。タイ操業時、応募してくるのは、十分に学校も出ていない人たちばかり。電卓の操作さえ知らぬ者もいた。それでも一つ一つ教育を施し、コイルの巻き方を教え、職人として育てていった。当時の〝一期生〟は今も数人が籍を置いていて、チームリーダーとして後進の指導に当たっている。

■「今どうなっているのか」

 同社の特徴は、こうした従業員個々人が「品質」についての徹底した高い意識を持っている点だ。測定ルームには誰もが自由にかつ簡単に操作ができる高額測定機器を導入。生産工程上でいつでも品質が測定できるようにした。「いくつの物が入庫されて」「いくつの物が生産されて」「いくつの物が出荷されて」「いくつの物が不良になって」「いくつの物が在庫になって」という同社の「5つのいくつ(5T)」も徹底。毎月末に実施する実地棚卸しと合わせて、不良品の減少につながっている。

 「品質管理は金を生むものでなければならない」というのが二代目となる小林幹佳社長の信念だ。前述の高額測定器もそのために購入した。「製造業で不良品は決してゼロにはならないが、極小化は可能。そのためには完成されてからの品質管理ではなく、その手前の生産工程上で行おうと考えた。『今どうなっているのか』。これが当社の理念です」

 品質管理改善策の一貫として、従来は紙ベースで保管していた品質データをクラウド化することにもした。これを請け負ったのが京都のシステム会社「ゼネック」だった。コイルの生産記録は保証のため向こう15年は保管しておかなければならない。これまで1カ月あたり段ボール箱で10~15箱はあった書類データを電子化して保存しようという試みだ。品質管理担当の三木孝徳QA Directorは「合わせて経理システムの見直しも進めています。クラウド化で書類の保管費用が削減できますし、何よりも古いデータの検索が容易になる」と効果を力説した。

 効果の見えない各種会議やセレモニーなども極力廃止。従業員の自主性を尊重している。社員教育や生産計画立案後の具体的な指示についてはチームリーダーにお任せだ。「何事も強要しないことが肝要。当社は24時間稼働の2直体制ですが、夜間にチームリーダー以外の管理職は不在です。信頼して任せることが大切です」と幹佳社長は話した。

 内燃機関車両から電気自動車(EV)などのエコカーに軸足が移り始めた自動車産業。新たな高出力モータが必要となれば、新たなコイルの需要も高まる。「モーターコイルに、サスペンションコイル。今までにない巻き線の巻き方が求められてくる。当社の腕の見せ所ですよ」と延守会長は微笑む。その新たな市場の幕開けを、今後も同社はタイで迎えると決めている。「手先が器用で真面目で、こんなに電子部品の製造に適した人種はいませんよ。特にタイ人女性はね」。そう言い切る会長の言葉が印象的だった。





T.I.T. ELECTRONICS CO., LTD.


231 Moo 13, Petchkasem 95 Rd, Omnoi, Krathum Bhan, Samutsakhon 74130 Thailand.
0-2811-0001~3/0-2811-0004
お問い合わせ先:三木
084-388-5572
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